イギリスの最大の美徳ともいえる教育分野において、歴史的に大きな動きがあった。
英の大学授業料値上げ法案、わずか5票差で可決(日経)
要するに、全国の大学(イギリスの大学は、1校を除いて全て国立)の経営状態がよろしくないから、学費なんて上げてしまえ!!というものだ。
労働党の立場としては、equal opportunityを確保することこそが彼らのモチベーションなはずなわけで、こういった動きは抑制されるのでは・・・と思っていたが、最近のイギリスはどうやら違うらしい。
約1000ポンドの学費でさえも、親に無理して払ってもらうか、スポンサーを見つけるか、そうでなければ学生ローンを借りて大学に来ていた生徒が沢山いる。
もちろん例外もあるとは言え、そうした学生のほとんどは「高等教育を受けているんだ」という意識を持って強く持って、人一倍勉強に励んでいたと思う。
長い暗闇の時代(英国病なんて言葉もありましたね)を通り抜け、90年代後半からバブル時代を迎えているイギリス。
新しいことに飛びつきながらも、古い伝統を頑なに守り続けるイギリス。
他人との距離感を絶妙に保ち、文化の多様性を許容し続けてきたイギリス。
去年のいつだったか、大学のテニス部で仲のよかったチームメイトから、就職していた銀行を辞め、ブラジルを数ヶ月放浪してから地元に帰ってエンジニアになる、というメールをもらった。
それ以来、彼からはメールもないし、こちらから職場に送っても返ってきてしまうのだけど、彼の言いたいことはとてもよく分かった。
彼も、学生ローンを借りて、大学院まで通っていた人間だ。
彼にはロンドンの今の空気が耐えられなかったのに違いない。
現在のイギリスの姿は間違いなくおかしい。
昔読んだ森嶋道夫の本で、こんな話があった。
本屋さんで子供用の絵本を見ていた彼は、海軍の軍艦や空母なんかが書かれた絵本を開く。
そこには、イギリス海軍の輝かしい歴史が書かれているのだけれど、本の最後にこう書かれている。
「これまで輝かしい歴史を誇ってきた英国海軍ですが、その歴史はもう終わろうとしています。これからはもう、軍艦や空母を作る必要なんてないのですから」。
・・・確か、こんな話だったと思う。
チベットで会ったイギリス人は、よくしゃべる、陽気で、他の文化に対して敬意を持った、楽しい連中だった。
恐らく今のイギリスがおかしいのは、降って湧いたバブルと、現在の世界的な動きのせいではないのだろうか?
華やかな栄光を追い求めることを止め、豊かな人間的生活を送ることを選んだ老大国イギリス。
どうか、「世界の秩序」などという虚言を並べた若き帝国の思い通りに動き、自らの名声を傷つける馬鹿げた行為はやめていただきたい。